今回はマンションやアパート等の収益物件を所有されている不動産オーナーや収益不動産を相続された方向けにLUUP等のシェアサイクルのポート(駐輪場)を収益物件に設置する際に注意事項について、書いてみたいと思います。
全国269都市に拡大中のシェアサイクル
最近、街中でよく見かけるようになったシェアサイクル。シェアサイクルは全国に拡大しており、2023年度末時点で全国269都市で導入されています。「乗りたい場所からサイクルポートが近いから」、「乗りたい時にいつでも乗れるから」「どこでも自転車を返却できるから」がシェアサイクルを利用する上位の理由で、その利用目的は「買い物・食事」「観光・レジャー」「通勤」「通学」「サイクリング」など様々です。自転車は環境にやさしい移動手段であるため、国としてもその推進を進めており、今後、益々の拡大が期待されています。

空きスペースに「LUUP」の駐輪場を置いて、物件価値を向上させたい
収益マンションや収益アパートを親から相続したり、また所有されている不動産オーナーも「LUUP」等のシェアサイクル事業者の電気自転車や電動キックボードの駐輪場(ポート)を物件の空きスペースに置いて、儲けられるのではないかとお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。自動販売機や通信キャリアのアンテナと同様にシェアサイクルの駐輪場も設置すれば事業者から利用料をもらうことができます。また、駅から遠く離れた物件の場合、入居者の利便性も上がり、物件価値も上がるので、不動産オーナーにも入居者にも双方メリットがあるように思えます。ただし、気を付けないといけないのが「固定資産税が6倍に増えてしまう可能性がある」という点です。

LUUPのホームページにも「法人・土地所有者の方向けに」空きスペースを書くようした物件価値の向上(交通利便性や物件入居率の向上)について触れてあります。電動キックボードの移動はおしゃれで格好いいですよね。
「固定資産税が6倍になる」って、どういうこと?
まず、固定資産税について説明します。固定資産税とは1月1日の時点で、土地、家屋等の固定資産の所有者に対してかかる税金で、所有している固定資産の価格をもとに算定した税額を、固定資産が所在している市町村(東京都23区は東京都が課税)をします。また保有している土地や家屋の所在地が市街化区域に指定されている場合は、固定資産税に加えて都市計画税もかかります。それぞれの税率は固定資産税が1.4%、都市計画税が0.3%です。
■固定資産税=課税標準(原則は固定資産税評価額)✕標準税率1.4%
■都市計画税=課税標準(原則は固定資産税評価額)✕制限税率0.3%
種別 | 税率 |
---|---|
固定資産税 | 課税標準(原則は固定資産税評価額)✕標準税率1.4% |
都市計画税 | 課税標準(原則は固定資産税評価額)✕制限税率0.3% |
ただし、この固定資産税と都市計画税には軽減措置があります。軽減措置は用地が住宅用地である場合、固定資産税が6分1になります。都市計画税が3分の1になります。なお、用地には主に2種類あり、住宅用地と事業用地の違いは以下の通りです。
■住宅用地=主に居住用の建物を建てられる(戸建て住宅、マンション、アパートなど)
■事業用地=収益を目的とした建物や施設を建てられる(商業ビル、店舗、工場、倉庫)
種別 | 内容 | 建物例 |
---|---|---|
住宅用地 | 主に居住用の建物を建てられる | 戸建て住宅、マンション、アパートなど |
事業用地 | 収益を目的とした建物や施設を建てられる | 商業ビル、店舗、工場、倉庫など |
住宅用地の固定資産税には軽減措置がある
■住宅用地の軽減措置とは
住宅用地には固定資産税の軽減措置が適用されます。具体的には小規模住宅用地では課税標準が1/6に、一般住宅用地では1/3に軽減されます。
■小規模住宅用地(200㎡以下)と一般住宅用地(200㎡超の部分)とは?
小規模住宅用地(200㎡以下)の軽減措置
固定資産税:課税標準額が1/6に軽減、都市計画税:課税標準額が1/3に軽減
■一般住宅用地(200㎡超の部分)
固定資産税:課税標準額が1/3に軽減、都市計画税:課税標準額が2/3に軽減

住宅用地となった部分に建つ住宅の一戸あたりにつき200㎡までの部分が小規模住宅用地に、それを超える部分は一般住宅用地に区分けされます。住宅用地とは住宅が建つ土地であり、その土地に建つ住宅の総床面積の10倍までの部分が住宅用地です。
具体的には、1,000㎡の土地に総床面積が50㎡の一戸建てがある場合は50㎡の10倍である500㎡までが住宅用地です。
300㎡の土地に総床面積が50㎡の一戸建てがある場合は、その全ての部分が住宅用地となります。
(出典:固定資産税をパパッと解説)
実際にどの程度、税金が上がってしまうのか。
では、住宅用地の固定資産税や都市計画税がいくら軽減されているのか(安くなっているのか)、具体例を見てみましょう。
例えば、所有している不動産(土地、家屋)の固定資産税評価額が2,000万円の場合の固定資産税率は1.4%なので固定資産税は28万円となります。また、所有される不動産が市街化区域内にある場合、都市計画税もかかります。都市計画税率は原則0.3%なので都市計画税もさらに6万円かかります。固定資産税と都市計画税で合計して34万円となります。
小規模住宅用地(200㎡以下)の軽減措置では、固定資産税の課税標準額が1/6に軽減、都市計画税の課税標準額が1/3に軽減されますので、
固定資産税 2000万円×1/6×1.4%=4.7万円、都市計画税 2000万円×1/3×0.3%=2万円
と合計6.7万円と計算されますので、34万円から▲27万円ほど税金が軽減されている(安くなっている)ことがお分かりいただけると思います。
逆に考えるとこの軽減されている税金の一部がシェアサイクルの駐輪場を設置することで上がってしまう、と言うことができます。例えば、上記の例で200㎡の土地の一部の20㎡をシェアサイクルの駐輪場すると、▲27万円の1割の2.7万円の固定資産税と都市計画税が上がってしまうということになります。
なお、固定資産税評価額は、毎年送られてくる固定資産税の納税通知書に付いている納税通知書や固定資産課税台帳から確認できます。

シェアサイクルの駐輪場は住宅用地ではない
このように住宅用地には固定資産税、都市計画税の軽減措置があるため、税金を低く抑えることができていますが、シェアサイクルの駐輪場を設置した土地ははたして住宅用地になるでしょうか。結論から言えば、シェアサイクルの駐輪場は住宅用地にはなりません。繰り返しになりますが、住宅用地は「主に居住用の建物(戸建て住宅、マンション、アパートなど)を建てることのできる用地」です。シェアサイクルの駐輪場はこの住宅用地の定義からは外れています。住宅用地ではないと事業用地となります。事業用地には固定資産税、都市計画税の軽減措置はありません。従って、所有する不動産の空きスペースをシェアサイクルの駐輪場の用地として貸し出した場合、現状の住宅用地から事業用地となって、その貸し出した土地の分だけ、固定資産税、都市計画税の軽減措置の対象外となってしまい、税金が上がってしまう可能性があります。
なお、知り合いの不動産会社によりますと、不動産オーナーからシェアサイクル事業者から勧誘を受けて、シェアサイクル用の駐輪場の用地として利用契約を交わしたそうですが、その際に固定資産税、都市計画税の軽減措置対象から外れる可能性があることの話は特になく、且つ利用契約にも税金に関する記述は特にないそうで、あとになってどうすればよいかという相談が入ってきているケースもでてきているそうです。しっかりとメリット、デメリットを検討してから判断したいですね。
住人専用の駐輪場であれば、固定資産税等の軽減措置は適用される
単独の駐車場(や駐輪場)も事業用地ですので、固定資産税や都市計画税の軽減措置はありませんが、住宅用地には、マンションやアパートの敷地だけでなく、その敷地と一体利用となる庭や駐車場や駐輪場なども含まれます。したがって、住宅用地と駐車場を一体化させたり、マンションやアパートの住人専用の駐車場、駐輪場であれば、その駐車場、駐輪場は住宅用地と見なされ、固定資産税の軽減措置が適用されますのでご安心ください。
国の固定資産税の特例措置は事業者向け
公共交通手段を保管して、環境にも優しいシェアサイクルの普及促進のために、国の補助金や税金の特例等ないか調べてみましたが、対象はシェアサイクル事業者向けのようです。対象設置物はラック、自転車、登録機、充電装置、雨除けとなっています。これは土地、家屋が対象になっていませんし、自転車やラックはシェアサイクル事業者が準備するものなので、不動産オーナーには関係ないですね。

ケースバイケースでシェアサイクルの駐輪場もメリットあり
LUUP等のシェアサイクルの駐輪場はポート設置工事や運営は事業者がすべてやってくれるようですし、月々の設置協力金も入ってきますし、立地が良い場合は別途、礼金の支払いもあるようです。
「固定資産税、都市計画税の増額分<シェアサイクル事業者からの収入」となれば、ほかに多少の電気代はかかると思いますが、利益も出る可能性があります。なお、小規模宅地特例には貸付事業用宅地の制度があり、特例の対象にはなるようです。少し調べてみると貸付事業用宅地となると200㎡を限度として50%の減額割合となるようです。ただ、土地全体が小規模宅地特例が適用されて固定資産税が6分の1となるのに比べると固定資産税と都市計画税が増額になるのは変わらないようです。
しかし、シェアサイクルの駐輪場を設置して、入居者の利便性や物件の価値の向上、他の収益物件との差別化といったお金には変えることができないメリットもあるかと思いますので、あとになって固定資産税、都市計画税の納税通知書が届いて、税金が増えていてびっくりした、ということにならないように、しっかりとメリットとデメリットを考えて判断したいですね。

【余談】役所はどうやって住宅用地から事業用地への変更を見つけるのか(推察)
余談ですが、市町村(東京は23区)の役所はどうやって、その土地が固定資産税の軽減措置の対象ではなくなったことを見つけるのでしょうか。住宅を1軒1軒を見て回るのは非効率なので、恐らく市町村(東京23区)の役所の担当者はLUUPのホームページを見ているのではないでしょうか。LUUP等シェアサイクル事業者のホームページと用途地域の記載のある地域地区の地図を見比べれば簡単に調べることができますよね。巡回で発見することは非効率的ですが、シェアサイクル事業者のホームページには必ず駐輪場(ポート)の地図はありますので、「あれ、ここ住宅用地だけどLUUPの駐輪場(ポート)ができている。ちょっと見に行ってみよう」みたいな感じじゃないかなと思います。あくまで私の予想です。
利用者にとって便利なものは、役所の担当者にとっても便利というのもなんとも皮肉なものですね。
ご参考までに上段がLUUPのマップ、下段が大田区のホームページです。こうやって比較すればLUUPの駐輪場と用途地域の比較は簡単ですね。それにしてもLUUPのポートはたくさんありますね。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!