尊厳死とは患者自らが自分の意志で、延命処置や延命治療を受けずに死を迎えることであり、また人として尊厳を保ったまま迎える自然な死のことを指します。一方、安楽死とは死期が迫った患者を、耐え難い肉体的な苦痛から解放するために、医師が積極的または消極的に自殺を助ける行為をすることをを指します。
尊厳死とは?
尊厳死とは、患者自らが自分の意志で、延命処置や延命治療を受けずに死を迎えることです。また人として尊厳を保ったまま迎える自然な死のことを指す言葉でもあります。つまり、尊厳死は不治の病にかかった患者が、自然の経過のまま、死を迎え入れることであり、本人の権限な判断の下になされた意思決定であり、自然死や平穏死と同義と考えられています。
日本では尊厳死は法整備されていない
日本では尊厳死は法律によって保護されていません。現状、法案の成立はされていませんが、2007年に厚生労働省が「終末期資料の決定プロセスに関する指針」を作成しました。患者自身、もしくは家族が延命治療の中止を明確に希望した場合、医師がガイドライン(終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン)に従って、延命中止することはあるようです。
終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン
ガイドラインには終末期医療およびケアのあり方について以下のように示しています。
1.患者本人による決定を基本として進めること
2.終末期医療の内容は、医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すること
3.できるだけ、疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和すること
4.患者の意思が確認できる場合には、患者と医療従事者とが十分な話し合いを行い、患者が意思決定を行った上で、その内容を文書にまとめておくこと
5.時間の経過、病状の変化、医学的評価の変更に応じてその都度、説明を行うこと
6.患者の意思が確認できない場合には、家族が患者の意思を推定できる場合にはその推定意思を尊重し、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とすること
7.患者・医療従事者間で妥当で適切な医療内容について合意が得られない場合等には、複数の専門家からなる委員会を設置し、治療方針の検討及び助言を行うことが必要であること
人と家族、医師による議論と合意形成がなされれば、延命治療の中止を含めた判断ができることが示されています。
医師が訴えられるリスクがなくなった訳ではない
しかしながら、ガイドラインがあっても、医師が尊厳死の判断した場合、その判断を担保する法律はないため、医師が家族等から訴えされるリスクがなくなった訳でありません。
この尊厳死の判断の難しさは、終末期の患者がほとんどの場合、意識が喪失していたり、人工呼吸器につながれていた場合は言葉を発することができない状態にあるために、患者本人が意思表示をすることが難しいという点にあります。
尊厳死と安楽死との違いは?
安楽死は治癒の見込みがない病人を、本人の希望に従って、第三者が苦痛の少ない方法で死に至らせることを言います。医師が手を加えることで死に至らしめる安楽死を「積極的安楽死」、治療を行わずに自然死を迎えさせることを「消極的安楽死」といいます。自然死を貫くことに重点を置く尊厳死とは考え方が違います。
尊厳死に関する法律はありませんが、安楽死は刑法第202条(自殺関与・同意殺人罪)に抵触し、違法となります。なお、自殺ほう助も刑法第202条(自殺関与・同意殺人罪)に抵触し、違法となります。
ただし、一定の条件のもとで安楽死を行った場合で、医師による積極的安楽死として許容される場合もあります。それには次の4つを挙げています(1995年 名古屋安楽死事件 名古屋高等裁判所)
1.患者が耐えがたい激しい肉体的苦痛に苦しんでいること
2.患者は死が避けられず、その死期が迫っていること
3.患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くしほかに代替手段がないこと
4.生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること
延命治療の拒否は遺言書には書けない
「延命治療をしないことを遺言書に書けばよいのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、下記の2点の理由について、延命治療の拒否を遺言ですることはできません。
1.遺言書は法定内容しか書けない
遺言書は被相続人の財産を誰にどの割合で相続させたいかを定めるための書類であり、法定された内容しか書くことができません。延命治療の拒否は法定遺言事項ではありませんので、法的な効力は生じません。
2.遺言書は死亡により効力が生じる
遺言書は遺言者が亡くなってから、効力が発生するです。当然のことながら、延命治療の拒否はその人が亡くなる前の話なので、遺言書に延命治療の拒否に使うことはできません。
延命治療を拒否するためには尊厳死宣言書=リビング・ウィル、より確実にするためには尊厳死宣言公正証書の作成を考えましょう。